装飾を取り払ったモダンなデザイン
ほかの西洋館と比べてしまうと、「簡素だな」と思ってしまうかもしれませんが、住宅としては一番最高な形であるエリスマン邸。現代の住宅デザインにおいても、コストを考える上でも、参考になる点をたくさん見つけることができます。たとえば、壁には一間の大きさの板を並べてそのまま使っているところ。板の自然な美しさをありのまま使い、かつ切り分けたりする必要もないのて費用がそこまでかからず、シンプルなかっこよさを表現できています。よく見ると壁に留められたビスが等間隔で並び、ビスさえも模様の一部にしてしまいます。こういった細部にまでレーモンド特有の近代性と合理性が感じられます。また、館内にはレーモンドがデザインした家具のレプリカもあるのでそちらにも注目です。
簡素の中に豊かな空間が見えてくる
「住む」ということを考えながらエリスマン邸を見てみる…。エリスマン邸の魅力はなんといっても空間としてのトータルな美しさ。直線的な形で、水平のラインが際立ちます。簡素な中に無駄がなく、住むことによって完成される空間。当時の建築は装飾や外形にこだわることが多かった中で、レーモンドは住む人の生活を大切にする考え方を重要視しました。そして景色さえも最高の形で見せられるように窓の大きさをデザインしています。ぜひ館内にある椅子の座り、山手でしか感じられないゆったりとした時の流れを感じてみてはいかがでしょうか。
大人気の喫茶スペース「しょうゆ・きゃふぇ」
玄関正面に位置する食堂はこの洋館の中心。その左奥、当時厨房だった部屋は今では小さなカフェ「しょうゆ・きゃふぇ」として使われています。横浜山手にあるナチュラルフレンチのお店エリゼ光がお醤油をテーマに作ったお店です。メニューにはお醤油を使ったパンや料理が並びます。中でも大人気なのが、ここでしか食べられないと話題の「プレミアム元祖生プリン」。なんと生卵が上にのっています!注文時にいろんな産地の卵を4種類から選ぶことができ、食べる人の口の中で新鮮な生プリンが出来上がるという仕掛け。窓からは元町公園の緑がきれいに眺めることができ、山手散策の合間にひと休みも◎。
チェコ出身の建築家アントニン・レーモンドは「近代建築の父」と呼ばれています。レーモンドは1919年、旧帝国ホテル建設のため、アメリカ人建築家、フランク・ロイド・ライトの助手として来日。やがてライトから独立し、日本にとどまって設計活動を続けました。1922年独立し、レーモンド事務所を開設し、多くの日本人建築家を育てました。神奈川県立音楽堂や国立西洋美術館の新館を設計した前川國雄もその一人です。レーモンドは師であるライトの影響が余りに強烈であったため、そこから抜け出すのに苦労したといいます。エリスマン邸はレーモンドがライトからの独立後、日本の大工に感銘を受け、かつライトのスタイルから決別しレーモンドらしいモダンな作風が出来上がるまでの過程がよく見て取れる初期の作品と言えます。
まるで館に住んでいるかのように、愛してやまない管理の仕方
エリスマン邸の高坂館長にこの西洋館に込める思いを伺った。
「常にいろいろな人に利活用してほしいですね。当初はただ見せるだけの館でしたが、今では展示室を一般開放しています。山手の西洋館は全館女性館長を採用し、子育てがひと段落した女性が、まるで館に住んでいるかのように、愛してやまない管理の仕方をしている。主婦の目線で館を管理すると、お掃除ひとつとっても、館の見せ方のアイデアや企画の面でも、どんどん変わっていきました」
エリスマン邸は横浜市が山手地区に洋館を残し、観光地化していくきっかけとなった館。歴史的に見ても、関東大震災後、日本における洋風住宅建築の歴史の始まりであり、横浜市だけではなく日本にとっても貴重なこの洋館。たくさんの人が訪れ、使っていくことで、このエリスマン邸を息づかせ、残していきたいですね。