かつてイギリス軍がいた場所
1862年9月に起きた生麦事件がきっかけで、山手居留地にイギリス・フランス両軍が現在の港の見える丘公園に駐屯していました。そして高台のほうに英国総領事公邸が建てられました。今横浜市イギリス館がある高台の一帯は当時「トワンテ山」と呼ばれていました。イギリス陸軍第20連隊が駐屯していたので英語の20「twenty」が由来となっていると言われています。建築様式は「コロニアル・スタイル」といって、イギリスやオランダ、スペインなどの建築技法を基本としながらも、建てる土地(植民地)の風土に合わせて実用性をかねたつくりになっています。イギリス館の主屋の左側は従属屋で使用人の住居。畳敷きの部屋もありました。
由緒の正しさを証明する銘版
玄関脇を注意深く見て、王冠入りの銘版を探してみてください。そこには王冠・GⅥR・1937とデザインされたものがあります。これは、映画「英国王のスピーチ」で知られるジョージ6世のロイヤル・サイファ(王室の紋章)です。Georgivs VI Rexの頭文字が組み合わされており、ジョージ6世の時代に建てられたという由緒を示しています。イギリスでは郵便ポストに同じジョージ6世のロイヤル・サイファを見つけることができるそう!ロイヤル・サイファでどの時代に設置されたものなのか一目で分かるようになっているんだとか。
船の窓をイメージした丸窓
風格の中にもモダンな雰囲気のある横浜市イギリス館。玄関を入ったところの天井では珍しい採光方法を取っています。丸いガラスを何個も合わせたこのデザインはとても珍しいものだとか。また、2階の部屋には丸い窓を見つけることができます。これは船の丸窓をモチーフにしたのではないかと言われています。昔はこの窓から横浜港を見渡せたそうです。
大使夫人がもてなす華やかなパーティ
要人を招き、パーティーを催すことも多かった領事公邸には、夫人がメイクをし、ドレスアップする専用の部屋がありました。現在は「控え室」という風に紹介されています。すぐ隣には豪華で長いドレスが、そのままかけられる大きなクローゼットがあります。そこにはきらびやかなドレスやお化粧道具があったと想像すると、乙女心に火がついてしまいますね。復元された寝室の奥に弓形のバルコニーがついたスリーピングポーチがあります。取材に伺った時期はちょうど西洋館全体でハロウィン装飾をしていたので、展示室ではヘレンドのテーブルウェアや、横浜家具を使い豪華に装飾をしていました。
英国総領事公邸であった歴史があるため、いまでもイギリスとのかかわりが深い横浜市イギリス館。西洋館で毎年企画されるクリスマス装飾も、クリスマスという「西洋文化」を知ってもらいたいという思いがあります。そしてイギリスの伝統的なクリスマスや、イギリスの家庭のクリスマスを紹介するというのも大きな目的のひとつ。クリスマスひとつとっても、日本とはちがい、飾るオブジェにも家族の安全や繁栄への願いが込められています。その家の伝統のタータンチェック柄などもあり、知れば知るほど、みなさんが面白く展示が見られるような仕掛けを作っています。
多くの人々に支えら彩られる西洋館
案内してくださった天野館長は「西洋館は、演奏、花展示など多くのボランティアや地域の方々よって支えられております。ご近所だからと何年も毎日庭園の草むしりをしてくださる方、四季折々の洋館を撮ってくださる方、大きなイベント毎に貴重な家具や食器などを無償で貸し出ししてくださる店長さん、取材をしてくださるメディアの方、その方々の思いが、より西洋館を魅力あるものにかえていると思っております。現在発売されているカレンダーにも、一般の方が撮影した写真を公募して使わせていただいてるんですよ」とお話してくれました。
最後に山手でおすすめの場所を教えてくださった天野館長。「山手本通り沿いの外国人墓地から富士山を望むことが出来る場所があり、気に入っています。特に夕暮れ時がおすすめで、皆さま立ち止まって写真撮影をされてますので、西洋館の帰りに寄ってみてはいかがでしょうか」