豪華なのにどこか温かさを感じる装飾
洋館内に入った瞬間から白と黒のタイル張りの床の意匠に目を奪われる。白と黒のタイル張りの床は、不思議の国のアリスの世界に迷い込んでしまったかのようだ。設計は山手111番館や山手聖公会、根岸競馬場など数多くの建築を残して、自身も外国人墓地に眠るアメリカ人建築家J.H.モーガン。モーガン得意の外観はスパニッシュスタイルを基調とし、玄関の3連アーチや、ヨーロッパの伝統的なスタイルであるクワットレフォイルと呼ばれる四つ葉の形をしたかわいらしい小窓、居間の天井は化粧梁の組天井、瓦屋根をもつ煙突など多彩な装飾が見どころ。随所にあるので見逃さないように!外観にも注目です。軒下にあるタイルには日本の伝統的な文様である網代模様を西洋的にアレンジしたタイルを見つけることができ、横浜を愛し永住した設計者モーガンならではの遊び心を感じることができます。
個人邸宅から寄宿舎へ
昭和31年に遺族より宗教法人カトリック・マリア会に寄付され、2000年まで、セント・ジョセフ・インターナショナル・スクールの寄宿舎として使用されていました。寄宿舎として利用されていたころは、質素な壁の色にするなど大幅に改装され、部屋に二段ベッドを配置するなどし、子供たちが寝食をともにしていたようです。
独特の雰囲気があるパームルーム
パームルームと呼ばれる部屋は、いわゆるサンルームに当たる部屋。方角は北側に位置されている。当時建っていた場所だと、北側に海を眺めることができたからではないかといわれています。青を貴重としたさわやかな格子状の床に、獅子頭のガーゴイルの壁泉という小さな噴水があり、実際に水も出るそう。採光を大きくとったアーチ状の窓から開放感を感じることができます。窓に施された青いアイアンワークもきれいです。心なしか、温室のような、空気感が流れており、外のような中のような、不思議な空間。お客さんが自由に座れる椅子が置かれているため、みなさんこちらで休憩しながら談笑していました。
まだまだある見逃せない装飾
アイアンワークと呼ばれる鉄の装飾は、階段の手すりや入り口、窓枠など随所に見られます。全室スチームの暖房が完備されていたにもかかわらず、ダイニングだけはフェイクの暖炉が作られています。それは来客も多かったベリック邸らしい、お客様へのおもてなしを表しているのです。暖炉にはひまわりを模った彫刻がなされており、じっくりと見てしまいます。配膳室の壁上部には、使用人がどこの部屋から呼ばれているかを確認できる機械が残っていて、各部屋には使用人を呼ぶことができるスイッチがあり、押すと光ってブザーが鳴ったのかは定かではありませんが、当時としてはハイテクな機器を備えていたようです。
<横浜家具>
横浜が開港してたくさんの西洋人が入ってきました。山手居留地に住んだ西洋人たちは自分たちの国の生活様式を日本でも維持しようと、元町の職人に自分たちの洋館や暮らしに合う家具を作らせました。それが日本における西洋家具職人が育つきっかけとなり、横浜家具の発祥といえます。元町の家具屋は、西洋人が修理に持ち込む異国の家具の修理や新しい家具の製作を通じて西洋家具づくりの技術を習得していきました。元町には家具店が軒を連ね、西洋家具の調査、企画、デザインをして職人から職人へと継承。注文から製作までを一貫して行う「西洋家具のまち」として発展してきた歴史があります。「ブラフ18番館」や「山手111番館」などをはじめ、山手西洋館に設置されている家具は、ほとんどが横浜家具です。
多彩な人材が集まる西洋館
スタッフの内藤さんに、西洋館へ込める思いをお聞きしました。「日々のお手入れも欠かさず、歴史ある洋館を綺麗に維持していくのは大変なこと。10年ごとに改修工事をしながらも、たくさんのお客様に訪れていただき、活用していただきたいという強い思いがあります。新しいイベントを企画したら、それをいかに多くの方に知っていただくかが課題ですね。子供たちが気軽に参加できるイベントなども企画しているので、そういった新しい企画が定着し、子供たちや若い人にもたくさん来てほしいです」
取材した当時は、ハロウィン装飾の時期。内藤さんもハロウィングッズを作りながらお客様の対応をしていらっしゃいました。多彩な才能を持ち、さまざまなバックグラウンドを持つスタッフがいるもの西洋館の魅力です。